携帯電話の基本中の基本、「電話」について理解を深めるべく、少しだけ技術的なことを考えてみました。
ドコモ、au、ソフトバンクの完全通話定額制プラン(カケホーダイなど)に対して、MVNOでは通話利用時の料金体系が非常に弱く、大手キャリアと同品質かつ同等料金で完全カケホーダイを提供しているMVNOは存在しません。
格安料金で通信サービスを提供しているMVNOなのに、なぜ通話になると急に弱くなるのかというと、MNOによる音声通話網や信号網の開放が進んでいないという事情があるようです。そこには法的な問題もありますし、技術的な問題、MVNO側の設備投資やコスト増の問題もあり、そう簡単には改善されていかないのかもしれません。
そんな中で、現実問題として「今できること」を最大限に活用してサービス提供しているMVNOは増えつつあります。
電話サービスの特性と合わせて、プレフィックス型、IP電話型、VoLTEなどについて検証します。
MVNOの電話サービスはプレフィックス型かIP電話型
MVNOが提供している電話サービスには各社様々ありますが、090/080/070番号が利用できるMVNOも以前よりはかなり増えてきました。
というよりも、ほとんどのMVNOがすでにMNPに対応しており、ドコモ、au、ソフトバンクなど大手キャリアから番号そのままでの転入も可能となっている状態です。
ただ、そうしたMVNOにおける電話サービスでは、「30秒20円」という料金体系が利用されているところがほとんどです。無料通話やかけ放題などもそこには存在せず、かけた分だけ通話料がかかるという完全な従量制プランとなっています。そのため、どうしてもMVNOの音声通話付SIMをメインの回線として利用するには、通話が多いユーザーにとっては超えるべき高いハードルが存在しているわけです。
完全通話定額で電話ができる大手キャリアの「カケホーダイ」がどうしても魅力的にうつり、MVNOへの転出に二の足を踏むケースも少なくないと思われます。
そんな中で、MVNOでありながら特徴を持つ電話サービスとしてサービス提供されているのが、プレフィックス型とIP電話型の電話サービスです。
プレフィックス型の電話サービス
プレフィックス(prefix)には「接頭辞」という意味があります。それではわかりにくいと思いますので、わかりやすくかみ砕くと、「何かの前(頭)につけるもの」ということです。
転じてプレフィックス型の電話サービスとは、相手の電話番号の頭に「0037-68(楽天でんわ)」「0032-6035(FREETEL・いきなり半額)」などをつけてかける電話サービスのことを指します。
通常利用時は、アプリを介して電話をかけるためわざわざプレフィックス番号を入力する手間は省略されていることがほとんどです。
プレフィックス型の電話サービスは、技術的には回線交換方式を採用しており、いわゆる大手キャリアの3G回線で電話をかけるイメージです。
一般的にIP電話と比較して通話品質がよく、090/080/070番号もそのまま利用することができ、発信をする際には相手にもそのまま番号を通知することができます。
この方式を採用した電話サービスを提供するMVNOとしては、「IIJmio(みおふぉんダイアル)」「楽天モバイル(楽天でんわ)」「FREETEL SIM(いきなり半額/1分かけ放題/5分かけ放題)」などがあります。
プレフィックス型電話サービスを提供するMVNOにおけるデメリットとしては、音声通話の回線をそのまま利用するため、データ専用SIMでは使えないという点です。必ず音声通話SIMが必要です。
IP電話型の電話サービス
一方で、IP電話型の電話サービスです。
こちらは電話回線網ではなくデータ通信網を利用して電話をかけるサービスで、自宅の固定電話サービスにおいても「050で始まる番号」として有名です。
050番号はIP電話に割り振られている番号なので、050番号から電話がかかってきたなら、「かけてきた相手はIP電話である」と判断できるわけです。
データ通信網を通るため、通常の音声回線を利用した電話よりも通話品質が低く、遅延や雑音、途切れなどが発生することが多いと言われています。
ただしメリットとして、同じ事業者同士の無料通話が可能だったり、携帯電話の電波が届かなかったとしてもWi-Fi環境があれば通話できたり、仮に海外だったとしてもインターネット環境さえ整えば通話ができるようになるという点で優れています。
このIP電話型の電話サービスを提供しているMVNOは以下の通りです。
「OCNモバイルONE(050plus)」、「NifMo(NifMoでんわ)」、「mineo(LaLa Call)」などです。
ほかにアプリとしてLINE OutやSkype、Viberなども同じくIP電話機能を利用しています。
MVNO・電話サービスのお勧めは
MVNOの電話サービスとして、プレフィックス型、IP電話型それぞれにメリットデメリットがあり、一概にどちらの方がいいとはいいにくいのですが、一般的な話であれば、通話品質を重視するならプレフィックス型、料金の安さを重視するならIP電話型、ということになります。
ただしプレフィックス方式の通話品質については、場所や状況によっては遅延がひどいとか、雑音が多いとか、品質の問題があることもありますので、プレフィックス型だから確実にIP電話よりも品質が優れているというわけでもないようです。
また、同じIP電話同士であっても通話品質については差があるらしく、大手キャリアのケータイやスマホでの通話のイメージをそのまま持ち込むと、大きく後悔することになる可能性もあります。
通話品質については、安心の大手キャリア、そしてVoLTEです。
VoLTE(ボルテ)とMVNO
VoLTE(ボルテ)以前に、人によってはよく耳にしたことがあるかもしれないワードとして、VoIP(ボイップ)という言葉が存在します。
VoIP(Voice over Internet Protocol)とは、「IP上に音声を乗せる」というような意味あいがあり、IP電話はそもそもこの技術が利用されています。
そしてこのVoIPと同じような意味で、LTEに音声を乗せるという意味で、VoLTE(Voice over Long Term Evolution)が存在します。
VoLTEは、インターネット通信網を通るという意味ではIP電話の一種といえますが、通常のIP電話で問題になることが多い通話遅延や雑音などの通話品質の問題が非常に少なくなり、現在のスマートフォンにおける通話技術の中では最上位にあります。
ただし、対応しているスマートフォンがまだまだ少なく、対応機種は大手キャリアの最新モデルなどが中心となっており、格安スマホではVoLTE対応のスマートフォンはほとんど見当たりません。
そんな中で、NTTドコモの2015-2016年冬春モデルのarrows FitをベースとしてMVNO向けにSIMフリースマホとして販売されているarrows M02については、VoLTEに対応しています。M02がSIMフリースマホ最高クラスの人気を誇るのは、この辺りも理由の一つかもしれません。
MVNOのSIMでそもそもVoLTEが利用できるのかという問題がありますが、IIJmioのSIMをVoLTE対応スマホに入れて利用してみたところ、問題なくVoLTEが利用できたという報告もありますので、あくまで回線をそのまま借り受けている状態であれば、対応端末を利用してさえいればMVNOのSIMでもVoLTE自体は利用できると思われます。
ただし、当然のことながら、VoLTEを利用できるからMVNO利用時でもカケホーダイになる、というわけではありません。通話定額サービスは大手キャリア契約に紐づいているのであって、VoLTE対応機種に紐づいているわけではありません。
今後のMVNOへの期待として、VoLTE完全対応格安スマホの拡大と、VoLTEを利用した完全通話定額制をこちらも格安で提供してもらいたい、というところです。もちろんそう簡単ではなく、それを実現できたとしても到底格安とは言えない料金にしなければ採算が取れないという可能性もあります。
そんな裏事情も踏まえながら、しかしそれでもMVNOの今後に大いに期待したいところです。